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 出発進行   村山恵美子

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前の投稿 - 次の投稿 | 親投稿 - 子投稿なし | 投稿日時 2016-2-28 20:06
m-hanami  モデレータ   投稿数: 373

 出発進行
                     村山恵美子

 あれは、十年ぐらい前のこと。朝夕肌寒くなり始めた夏の終わり。私は札幌駅のホームで名寄へ帰るための列車を待っていた。午後二時頃だ。そこに、すーっと滑るように長い列車が入って来て静かに停車した。綺麗だった。深みのある濃いブルーの車体。もしかして…。 
 近寄ってプレートの名を見た。『北斗星』札幌上野間を走る寝台特急北斗星である。初めて見た。なんだかわからないがすごい存在感だった。ホームにぱっと華が咲いた感じがした。なにか点検のために出てきたのだろう。こんな早い時間に出発する列車でないことぐらいは知っていた。
 ちょうど目の前に停まった車両が食堂車だった。大きな窓から中を覗き込む。
テーブルには真っ白なクロスが掛けられ向かい合う座席。優しい色合いの照明。
椅子も床もそこに漂う空気までもがとても素敵だった。ここで誰がどんな話をするのか。豪華なフレンチなど気取って食べるのだろうか。恋人同士が、
「これ美味しいね」
と見つめ合い、女性はウフっと笑っていたりして。車窓の眺めもさぞかし感動的なのだろうな。なんて、勝手な妄想を繰り広げる。
気づけば、ホームに居合わせた大勢の人が近寄って覗いたり、一緒に写真を撮ったりしていた。飽かずに眺めていられる本当に綺麗な列車だった。
一度乗りたいと憧れていたが、北斗星は昨年廃止になってしまった。
「え、汽車?そんなの時間かかるしさ、旅行は飛行機がいいよ。出発から三時間もあったら、日本中どこでも行けるよ」
私の周りは皆この意見。悲しいことに列車好きが一人もいない。速さじゃなくてさと言ってみても通じないのだ。

時代は変わった。なんでも早くなくちゃダメらしい。時代の流れにうまく乗れない私は、膝の上に駅弁乗せて、発車してから食べようかなと、なんとはなしに外を見ている時間が好きだ。そしてカクンとほんの少ししゃくるように列車は動き出す。“出発進行”と心の中で言う。
多分、私はこの瞬間、子供のようにちょっとニタっとしているのかもしれない。
推奨数:2 平均点:10.00

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