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坂本龍馬
3、 梅香る


第一章、将軍と龍馬

4、公家の謀略


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 4、公家の謀略

「尚忠様が無事であったのも何よりじゃった」
 将軍が公家の尚忠に様を付して尊称するのには理由がある。九条尚忠は、公卿で唯一の徳川幕府擁護派であり、平和裏に行われる公武合体こそが日本の国力を強める唯一の道であると信じて、孝明天皇を説得し、既に婚約をしていた有栖川宮に婚約の解消を通告し、孝明天皇の妹君である和宮親子内親王を、家茂に降嫁させて幕府との絆を深めた陰の立役者だった。
 その尚忠の尽力に応えた幕府は、九条家に五百俵の加増を行なったが、家茂にはさらに、九条尚忠には借りとも言える恩義があった。
 それは、紀州五十五万石の藩主だった家茂が十三歳の若さで将軍職に就けたのも、九条家の家令であった島田左近と、大老井伊直弼の懐刀で国学の師でもある長野主膳とが画策して、水戸派が推す一橋慶喜(よしのぶ)を排したからに他ならない。
 今や、その直弼も桜田門で凶刃に倒れ、長野主膳も断罪、京都守護の新撰組に与して暗躍した島田左近もすでに勤皇の志士らに討たれて京の街に首を晒されて今はいない。
 こう考えると、九条尚忠暗殺を企んだ池田屋騒動の遠因は家茂にもあった。あの過激集団の目標の一つが、公武合体を企み和宮降嫁を成功させた九条尚忠の誅殺だったのも、将軍家茂にとっては皮肉なめぐり合わせだった。
「杉山太兵衛、気になることがある」
「いかがなことでございましょう?」
「坂本は、何を目的に薩摩と長州を結びつけたのじゃ?」
「倒幕以外に考えられるのは、外国人代行での武器の売買です」
「危険だな?」
 家茂が呟くと、康英が床机から降りて腰を低くし、片膝を地に付けて伺いを立てた。
「いかがいたしますか? 幕府に仇なすようなら、早めに芽を摘まねばなりません」
 康英が床机に坐りなおして、また築山に向かって語りかけた。
「薩長を結びつけて討幕を考えているのは、その男だけか?」
「意外な人物が裏で糸を引いています」
「大政奉還論の三条実美(さねとみ)卿か? たいそう幕府を憎んでいるそうだからな」
「確かに三条卿は、父君を先年の大獄で処断され、母は土佐藩主の出、長州とも縁が濃い宮様ですから仕方ありません。しかし、三条様は目立ちたがり屋ですから裏方にはなれません」
「では黒子は誰じゃ?」
「上さまのご前で言いにくいのですが・・・」
「苦しゅうない」
 家茂が許した。
「では、恐れながら申し上げます。和宮さまとの婚約を破棄された有栖宮織仁(ありすのみやたるひと)親王が旗頭で、東久世通禧(みちとみ)卿がまとめ役として裏で動いています」
「有栖宮は分かるが、あの温厚な東久世までが?」 
 東久世通禧、三条実美ら勤皇の公卿七人は、元治元年(一八六四)の禁門の変で薩摩・会津など公武合体派に敗れて京都から追放され長州から博多に追放されたが、その後、錦小路宮が病没し、澤宣嘉(のぶよし)卿が脱出したため、五卿が大宰府に送られていた。
 康英が口を挟む。
「上様のご婚儀の席でご挨拶いたしましたが、東久世卿は幕府にも理解があるお公卿です」
 太兵衛が答えた。
「その通りでございます。ご本人は腹の据わった度量の広いお方で、五卿が九州五藩にそれぞれ別にお預けと決まったときにも強硬に反対して五卿共々大宰府に落ち着くことが出来るようにした方で、敵味方共に人望のある立派なお方です」
 家茂が康英に言った、
「東久世家は村上天皇から出た久我源氏の子孫で、久世、千種、北畠、大河内、赤松などの公卿や豪族とも縁戚になる家柄じゃ」
「では、武士に近い公家でございますね?」
「この東久世一族は戦う公卿でな。大権現様の天下統一の折には加藤清正公の脇軍師として活躍して手柄を立てている。太兵衛とやら、他の公家衆の動向はどうじゃ?」
「いずれ、大政奉還になれば、天皇中心の世の中になり、自分たちが政治の中枢に戻る・・・こう考えて動いているようです」
 そこからまた康英が訊いた。
「公家の五卿は、自分たちを追い落とした薩摩に対する恨みは深いから簡単にはまとまるまい」
「それが違うのでございます。坂本が、大宰府の延寿院に謹慎中の三条実美卿と東久世卿を別々に訪ねて、薩長連合の密約を了承させ、大儀の前には私憤を捨てよう、と言わせております」
「なるほど、坂本が三条と東久世を抱き込んだのだな?」
「それが逆なのです。坂本だけではございません。大政奉還を見据えた各藩の重役が、今後の政局に公卿の政治力が必要だと考えて大宰府の五卿詣でを重ねているのでございます」
「倒幕後の政局か?」
「そう考えて間違いございません」
「坂本は何を考えておる?」
 太兵衛が、しばらく沈黙した後、言いにくそうに口を開いた。
「海外交易が目的ですが、どこにいても女と絡んでいて、とても武士の鑑とは思えません」
「それだけの男だ。女の一人や二人がいても当然であろう?」
「一人や二人なら、ここで報告すべきことではございません」
「では、三人も四人もおるというのか?」
「私の知るところだけでも八人、多分、十人以上はいると見て間違いございません」
「まさか?」
 家茂が絶句した。築山の梅の枝に遊ぶ鶯が春を告げて囀っている。



5、 九条尚忠


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