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アルプス秘話
3、機内にて(1)

4、機内にて(2)

    しばらくして、葵の前の席の女性二人連れの50代と思われる品のいいご婦人が立ち上がり、座席越しに振り向いて頭を下げ、手に持った紙片を葵に手渡した。

   「済みませんが、相性をみて頂けませんか? 女性は私で男性は夫、この旅行から帰ったら離婚しようと思っているのですが、決心がつきませんので」

    内容が深刻だから葵も真剣になる。看護師で占い師でもある母親から聞いた耳学問だから精一杯考えても自信がない。それでも椅子越しにカンを交えて小声で答えた。

   「昭和29年1月23日生まれですと、節分までは前年で見ますので、生まれ年は九星でいえば二黒土星、12支でいえば巳年ですね。二黒土星は我慢強く控えめで、人を育て人に奉仕して尽くすタイプで、巳年は粘り強さと執念深さがありますので、今までの我慢を長い間耐えてきて、今になって我慢が出来なくなったのかも知れません。生まれ月は九紫火星の丑ですから華やかな理想を描き粘り強くチャンスを待っているのも特徴といえますね。

    一方、ご主人の昭和25年6月10日は、五黄土星の寅年で、七赤金星の午月生まれですから、正義感が強くてよく働きますが多趣味で派手好みの遊び好き、生月の九星から生年九星をみる星は新しいもの好みの震宮(しんきゅう)傾斜といい、若い女性に興味があるように思えます。これがご夫婦関係の問題のような気もしますがいかがですか?」

   「驚きました! その通りです。じつは主人が浮気をしまして……で、相性は?」

   「生まれ年の二黒土星と五黄土星は同じ土の気質で吉、巳と寅は破の関係で凶、生まれ月は九紫火星と七赤金星は火が金を溶かして凶、丑と午は過不足ありません。これで考えますと、相性は確かによくありません。でも、家庭は相性だけでは説明がつかないこともあるようです。ご主人の浮気も過去の過ちとみて許してあげたらいかがですか?」

    ご婦人が葵の顔をじっと見つめ、額にしわを寄せて言った。

   「あなたなら、夫が浮気しても許しますか?」

   「いえ、許しません。すぐ叩き出します!」

    その言い方があまりにも真剣だったので周囲がし−んと静まり返った。その異様な雰囲気に呑まれて葵はあわてて訂正した。その声が少々大き過ぎたのが悔やまれる。

   「叩き出す前に、私も浮気します!」

    葵自身は顔が真っ赤になるほど恥ずかしい思いをしたが、ここで周囲の緊張がほぐれ、次から次ぎに手相を見てくれの子供の進学だのと、乗客だけでなく客室乗務員も交代で来るから葵はもう仮眠する暇もない。

    仕方ないから口から出まかせで言うのだが、それが当たっていると言われて、いつの間にか周囲からは、山田先生と呼ばれ、にわかマネ−ジャ−の恵子がお金は断るが、お菓子は頂くからたちまち食品が山のように集まった。そのお菓子をクル−の皆さんで分けて、と気前よく乗務員に上げたからまたモテる。

    こうして、葵はパリの北にあるロワシ−空港到着までの間、休む暇もなくこき使われ、休暇気分など吹っ飛んではなはだ面白くない。それでもロワシ−のシャルル・ド・ゴ−ル空港到着寸前には占いから開放され、ホッとして気持ちが安らいだ。

    ロワシ−空港到着は現地時間で14時50分だった。機内で時差を調整した時計を眺めて逆算すると、到着までのフライト時間は成田を出て約12時間余の遠い旅だった。

    この世界有数の巨大空港は国際的にはシャルル・ド・ゴ−ルだが、フランスではロワシ−の呼称が一般的で、タクシ−にもそう言えばいい。そこまでは葵も知っている。

    ただ、ここに一人で放り出されたら……そう思うとゾッとする。

    JALとも関係が深い旅行会社に勤める恵子は、もともとキャビンクル−の何人かとは旧知の仲だったが、葵までもが占いを通じてクル−とすっかり打ち解けていた。

    葵と恵子が泊まる宿は、自由の女神像のあるグルネル橋際の以前はオテル・ニッコ−だったノボテル・トウ−ル・エッフェルという全階で764部屋もある大型ホテルで、キャビンクル−とは同宿だった。恵子の勤める観光会社が、日本語の通じるホテルということで、よくここを使っていた。

    それを知った宇野の勧めでクル−のバスに便乗することになり、おかげで空港から26キロの道のりを高速道路を利用しながらもエッフェル塔周辺のパリ観光を楽しむことができた。快晴の午後のパリの市街はまぶしいほど明るかった。

    マホガニ色の明るい外装の目立つホテルに着くと、クル−を集めた宇野キャプテンが、慣習になっているミ−ティングで、解散後の心得を規則通りに喋っている。それを聞いてクル−のこの日の勤務は終わるのだ。

    それを横目に見て、チェックインした葵と恵子は25階の部屋に入り、運ばれた荷物を開いてから交代でシャワ−を浴び、ラフな服装に着替えると気分も楽になる。

    部屋は壁もカ−テンも明るいベ−ジュ系と木肌を生かした薄い茶系で統一されていて、ツインベッドにデスクも冷蔵庫もテレビもインタ−ネット接続のブロ−ドバンド完備で何の問題もない。

    広い窓にかかったベ−ジュ色の縞模様のカ−テンを開くと眼下にセ−ヌが流れ、グルネル橋のたもとに自由の女神の像が小さく見えていて、対岸の放送局の建物がカッコいい。恵子が葵に言った。

   「今日はオペラだけど、明日か明後日はセ−ヌ川クル−ズだからね」

   「そんなに、あちこちに行けるの?」

   「帰りの便に乗るまでは目いっぱい遊ぶのよ」

    パリの初日の夜はオペラだった。19世紀からの文化の殿堂としての歴史を誇るオペラ・ガルニエは、新たにオ−プンしたオペラ・バスティ−ユにオペラの主役を譲り、バレエを主としていたが、今回は特別公演でシェ−クスピアのロミオとジュリエットをオペラで演じることになっていた。なんと、そのチケットを旅行をキャンセルした客がゲットしていて、無用になったからと寄付してくれたのだから感謝の言葉もない。どうせ、フランス語のオペラでは二人には通じないが、演目がロミオとジュリエットならジェスチアと雰囲気だけでも充分に理解できる。ここは絶対に見逃せない。

    シャワ−で旅の疲れをほぐすと、時差ボケも何となく飛び去ったような気がしてスッキリした。二人はすぐ外出の支度をした。

   「さあ、出掛けよう!」

    気合を入れて二人は身支度を整えて部屋を出た。

    ジ−ンズからスカ−トに、スニ−カ−からハイヒ−ルへと、ほんの少しだけドレスアップしただけで、葵も恵子もガラリと雰囲気が変わって優雅になる。

    フロント前のソフア−で英字新聞を読んでいた宇野がびっくりした表情で目を見開いて二人を見た。その視線に応えて笑顔で手を振ってホテルを出た二人は、玄関前で客待ち待機中のタクシ−に勢いよく乗りこんだ。だが、葵も恵子も英語は多少話せるが、フランス語となるとまるで自信がない。

    葵がとっさに、「ジャコブ スィル ブ プレ」と言ったところ、運転手が「ウイ」と返事をして車は走り出した。これで葵が自信を取り戻したのだから単純なものだ。

    オペラ座に行く前に早めの夕飯と、時間に余裕があれば葵の希望した骨董品の店めぐりを、と考えて、まず骨董品の店が並ぶジャコブ通りを目指すことにしたのだ。


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5、パリの事件(1)


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