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坂本龍馬
3、 サトウの殺意


第十一章 招かざる殺意

 4、佐々木と近藤の殺意


 

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4、佐々木と近藤の殺意

 長崎から遠く京の夜、佐々木只三郎と近藤勇は情報交換を兼ねて飲んでいた。
 月がなく星が冴え冴えと夜空にまたたき、木枯らしが震えて泣く不気味な夜だった。
 京都見廻組四百名近い隊員を率いる只三郎は、会津藩出身で神道精武流の剣、宝蔵流の槍の達人、男谷精一郎に師事して直心影流も極め幕府講武所の剣術師範も勤めたことがある。今や、二百石から始まって千石取りの旗本だった。
 一方の新撰組局長・近藤勇も今は幕臣に取り立てられ御目見得以上の旗本で三百石、土方が御家人扱いなのに格段の出世だった。不逞浪士を取り締まる新選組も今では二百名近い大所帯、御所を含む京の中央部の治安を守るのに命を賭けている。
 この二人が醒ヶ井木津屋端近くの近藤の妾宅で会っている。二人とも、喋るより飲んでいるだけで充分なのだ。
 佐々木只三郎も近藤勇も尊攘派志士からは鬼のように恐れられていた。
 しかし、その素顔はごく普通の三十代半ばの男盛りの武士で同年齢、只三郎が四ケ月だけ上だった。二人の共通点は、どちらも訥弁なのだが今宵は珍しく語り合った。
 勇の愛妾お孝が只三郎の持つ椀に熱燗の酒を注いだ。
「近藤さん、あんた時々、土佐の後藤と会ってるそうじゃないか?」
 長身で精悍な只三郎が椀の酒を飲んでから、興味深々という様子で身を乗り出した。
 がっしりした体躯の勇が少し間を置いてから重い口を開いた。
「後藤象二郎か? やつが京都に来たときは会うが、なかなか腹が据わった男でな。大分人を斬ってるらしい」
「以前、武市が差向けた岡田以蔵に切り掛かられ、逆に反撃して袴を裂いたら以蔵が肝を冷やして逃げたそうだ」
「その以蔵も土佐勤皇党の弾圧で討ち首で、首領の武市瑞山は切腹、この弾圧は全部、後藤がやったのだ」
「土佐は、内部抗争の激しい藩だからな」
「後藤は、今や山内容堂公の懐刀だぞ。やつが画策すれば何でもできる」
 二人はまた静かに酒を飲み、若いお孝が立ち上がっては燗酒を運んで来て酌をする。
「後藤との話の内容は差し支えあるのか?」
 今度も間を置いてから勇が答えた。
「構わん。いよいよ決断を迫られてる様子だが、まだ容堂公と島津の殿様が意見違いで揉めてるそうだがな」
「容堂公や後藤は計算高い。貴公らのようにいつでも命を捨てる覚悟の人間とは違うぞ。口と腹は別だ」
「後藤は拙者より四つも若いのに老成し過ぎている。敵味方に別れても幕府に弓は引かんと言いおった」
「倒幕派じゃないのか?」
「分からん。幕府はなくなっても徳川家も会津藩も残るようにする、と夢のような話をしおった」
「それは無理だ。薩長がここまま引っ込むまい」
「しかし、無理に戦うこともあるまい」
「おぬしは、随分と弱腰になったな」
「わしは命など惜しまぬ。与えられた仕事をし遂げて死ぬだけさ」
「武士が刀を棄てん限りは、血を見んと戦さは収まらん。そのための修行だからな」
「薩摩と長州は洋式武器で武装して、何としても幕府を武力で壊滅させると力んでるそうだ」
「と、なると、薩長にとって坂本は?」
「徳川を潰すために戦う戦争の邪魔をする坂本は憎いでしょうな」
「家茂さまは、坂本は幕府方だから切るなと言われたが、慶喜さまの側近は坂本を倒幕の立役者と見てるぞ」
「見回組は坂本をどうする?」
「斬る。五日から京にいる坂本は一昨日から土佐藩出入りの醤油商・近江屋に隠れ家を移した。斬るなと命じられた家茂様が亡き今、坂本をかばう理由など何もない。ヤツが勤皇倒幕にいる限りは斬らねばならん。近江屋には薬屋に仕立てた部下が網を張っている。いずれ、大物が出入りしたら、そいつと一緒に斬る。近藤さんは?」
「坂本は敵ながらあっ晴れだ。己の立身出世や藩のことより国のことを考えて動いている。斬るには惜しい。だが、歳三が斬るといえば仕方がない。わしが止める理由はないからな」
「もたついていると、開戦を邪魔された薩長が先に坂本を襲うだろうな」
「それなら、それで見回り組みにとっても好都合じゃないか?」
「土佐の後藤にとっても、坂本は邪魔になる存在に違いない」
 佐々木が腕組みをして宙を睨んだ。後藤は師の吉田東洋を斬った土佐勤皇党の一員だった坂本を許せるはずがない。
「後藤は武市らを一網打尽にして斬ったのに、まだ不足かな?」
「坂本は郷士の身で出すぎた真似をし過ぎた。あれは公の場には出せん。ここからは後藤の出番だからな」
「なるほど。ならば、歳三に斬らせる相手は後藤だな」
「新選組や見回り組が後藤を斬れば戦争になる。これこそ思うつぼだ」
「おぬしは全く戦いが好きな男だな。放っておいてもいずれは戦争になる。そう焦らずに、もっと現世を楽しんだらどうだ」
「それもそうだな。近藤さんのように生きるのもいいか?」
 只三郎がちらとお孝を見て遠慮がちに言った。
「お考さんは、姉の美雪太夫と違って静かなのがいいねえ」
 近藤がそ知らぬ顔で茶碗酒を飲んだ。
 姉の美雪太夫は、妹に手を出した勇に怒って手切れ金二百両で島原に店を出し、まだ近藤を恨んで「殺す」と言っているらしい。
 女の恨みは恐ろしい。お孝は大阪曽根崎新地の茶屋で働いていたのを近藤が引き取っていた。
「ところで、以前、近藤さんが食指を動かした寺田屋の女が、今は坂本の嫁らしいな」
 近藤が豪快に笑った。
「太兵衛から買った鼈甲のかんざしを手渡して茶屋の名を言ったら、あの女はすぐとんで来て寝たぞ」
 お孝が「まあ」と初めて口を開いた。
 それからまた、ひとしきり二人は酒を酌み交わした。
 だが、只三郎が口にした龍馬の嫁の一言が、近藤勇の心を龍馬への殺意に駆り立てた。
 只三郎が言った。
「昨日、何を企んでるのか、御陵衛士(ごりょうえじ)の伊東甲子太郎(かしたろう)が藤堂を連れて坂本に会いに行ってるぞ」
「まことか?」
「彼らは薩摩から資金援助を得て勤皇方の片棒を担いでる。近藤さんは許せるのか?」
「許せぬ!」
 その瞬間、近藤の殺意は龍馬から伊東甲子太郎に変わった。平助などはどうでもいい。
 伊東甲子太郎は剣にも学問にも勝れ、隊員の人望も厚く、理路整然と新選組の粗暴さを非難して去った。
(ヤツだけは許せぬ)、近藤勇は殺す相手が決まると落ち着く。嫌な癖だが仕方がない。



5、 大久保一蔵の殺意


添付ファイル: filekaiundou.jp_ryoma062.jpg [詳細]

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