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坂本龍馬
3、 刺客到来


第十二章 死して残るもの

 4、龍馬の最期


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 4、龍馬の最期

 その時、近江屋の表に足音が重なり、「今井は表を見はれ!」と聞いたことのある声がして一気に階段を上る足音がした。涙を流して龍馬の体を抱いたわずかな間が中岡の不覚だった。龍馬の刀がそこにあるのに中岡は咄嗟に腰の小刀を抜いて立ち上がった。
 だが、相手が悪かった。一気に階段を駆け上がって飛び込んで来た長身の佐々木只三郎の激しい必殺の剣風を二度までは受けたが、腕に差はなくても長刀と小刀では格段の差がある。只三郎の鋭い袈裟斬りで肩先を裂かれて血を噴き、必死の抵抗もむなしく頭部、肩、腹部と切りたてられて力尽きた。後から上がって来た部下が見たのは、二人の男が血だらけで倒れている傍らに、返り血を浴びて袴を朱に染め、血刀を持ったまま立っている佐々木只三郎の姿だった。
「坂本は?」
「そこに死んでるのがそうだ」
「くみ頭が?」
「違う。誰がやったか知らんが凄い切り口だぞ」
「これは誰です?」
「中岡慎太郎、なかなか手ごわかった。引き上げるぞ!」
「とどめは?」
「もうよい、もうよい」
 部下の一人が中岡の尻を刺した。その途端、只三郎が頬に平手打ちを食らわして「武士らしくしろ!」と、階段から蹴落とした。太兵衛はまた出る幕を失った。
 嵐が過ぎると静けさが増す。
 一度気絶したかに見えた中岡が必死の唸り声を上げて、床の間横の窓から物干し台に這い出ようとしている。生きるという気力が瀕死の重傷の体に漲っている、凄い執念だ。中岡は屋根まで這って気絶した。
 太兵衛は、龍馬がまだ息のあるのを知って天井から飛び降りて、龍馬の耳元で怒鳴った。
「しっかりしろ!」
 あり来たりだがこの言葉しか頭に浮かばない。
「脳をやられた。もういかん。た、たのみが・・・」
「言うて見い」
「おりょうを・・・バカなおんなじゃから幸せにしたかった」
「お龍さんだな?」
「すきなのはお元、さな、かよ・・・おりょうだけがダメなおんなじゃった」
 消えてゆく命の中で、苦しい息の中、しぼり出すようなか細い声に龍馬の心情が込められている。
「引き受けた。安心してハライソとかへ行け」
「百ねん・・・百年たったら」
「戻って来い。この日本に戻って来てまた世直しをやれ」
 苦しげな息の中で声も途切れがちだが、血だらけの死に顔に笑みを見せて龍馬が言った。
「とどめをたのむ、たへいさん・・・」
「知っていたのか?」
 これ以上は苦しめられない。太兵衛はクナイを取り出して龍馬の喉に当てた。
「おりょうを・・・」
 これが最後の言葉だった。太兵衛が目を閉じてクナイの刃先を突いた。
 血が噴いて太兵衛をも染めた。
 龍馬の口に手を当てて、息の止まったのを確かめて太兵衛は合掌し、立ち上った。
 中岡をと見ると、まだ気絶はしているが息はある。こちらは助かるかも知れない。
 太兵衛はそのまま、中岡の横をすり抜けて近隣の屋根伝いに裏に走り誓願寺に抜けた。
 そこの井戸で血を洗い、隠してある別の呉服商の着衣に換えるのだ。
 
 風聞というものは分からぬものだ。太兵衛は、滋賀の宿で近江屋の顛末を聞いた。
 坂本龍馬と中岡慎太郎は、新選組に切られたという。遺留品は、原田左之助のに似た赤鞘と、先斗町の新選組ご贔屓の料理屋・瓢亭の焼印入り下駄が一足、「証拠の品を残すなんて新選組もヤキがまわったな」、こんな評判がたっていた。
 籐吉には姓があって十九歳、山田藤吉といい四股名を雲井龍という相撲上がりで龍馬が龍が一緒だと言って可愛がったそうだ。腕力が強くて、当日も新選組の猛者を何人も投げ飛ばして最期に土方歳三に切られたとか。これは嘘だ。土方はそんな男は斬らない。刀の錆が増えて研ぎ代が高くつくからだ。書林菊屋の長男で峰吉という十六歳の若者が勇敢にも、龍馬が近江屋に滞在していることを知らせて金一封をせしめたとも聞く。これだけは本当らしい。
 小料理屋で別の節も聞いた。十津川郷士と名乗った武土を筆頭に大勢の武士が現れて、元相僕取りの藤吉を取りつぎに使ってから切り、寄ってたかって龍馬と中岡を切った。これは実際に戸の陰から現場を見ていたという近江屋の主人・新助の談話らしい。
 まだある。龍馬と慎太郎を切ったのは、京都見廻組の佐々木只三郎と今井信郎だとか。今井は小料理屋で酔った勢いで自分から「坂本を斬った」と自白したが誰にも相手にされなかったらしい。いずれにしても、諸説が入り乱れて真相はますます分からなくなっていた。
 こんな話を聞いていると、太兵衛自身も何だか幻を見ていたような変な気分になる。

 その後、小田原宿で太兵衛を見たという者もいたが、そこからは全く消息が絶えた。
 真相を知るただ一人の男が消えたのだから、未来永劫、諸説が交錯するのは仕方ない。



5、 墓石


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