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新選組・残照
3、 試衛館の兄弟子

4、 後継者争い

 この強い島崎一師範代が、師に稽古を求めたのだが、五十一歳の師の周助には全く手が出ない。
老師の周助が、勝太が初めて聞く獣のような咆哮で脅し、素早い動きで木刀を振るうと、同じよ
うに大声で応じた島崎一が、成すすべもなく面,胴、小手と見事に打ち分けられて反撃すらまま
ならない。これが真剣なら命など幾つあっても足りないことになる。周助は宮川道場での父や村
人、勝太らに対しては遊び半分の手抜きで教えていたのだ。
(これは大変!)
 これが、勝太の実感だった。
 天然理心流には、切紙 序目録、中極位目録、免許、指南免許とあり、切紙と序目録には剣に
加えて柔術があり、組み合って相手を倒して動きを封じるのも天然理心流の極意の一つだった。
 その後ある時、島崎一は勝太にこう伝えた。
「実際の戦いでは真向唐竹割りや袈裟切りなど派手な勝ちはいらん。斬るなら頸動脈、突くなら
喉か心の臓、手強い相手は手首狙いじゃ。どんな相手でも手を斬れば動きが鈍る。当流の晴眼の
構えは相手の左目に付けるが、これは相手が上段に振りかぶろうと動いた瞬間、そのまま踏みこ
んで素早く左手の手首か二の腕を斬るためだ。それも、刀を使えぬように傷つけるだけでいい。
これならどんな相手でも斬れる。仕留めるのは次の突きの一手だから相手には刀も触れさせんで
済む。大勢との斬り合いでも刀は痛まず血脂が乗らないから何人でも倒せる。鍔迫り合いになっ
たら指を斬り落とす。それを心掛けて稽古をしてみろ」
 島崎一は小柄だが技に優れた剣客で、試合を挑まれれば百戦百勝の無敵の力で必勝の技を繰り
出すが、自分からは争いを好まぬとか。
 この島崎一は、師の周助が多摩の宮川家から養子にする少年を見つけたという噂を聞いて、自
分が立ち会うまでは態度を決めかねていたが、道場で勝太と対峙してみて、勝太に備わった天賦
の才能と将来性を読み取り、「醜い争いはしたくない」と周囲に言ったと後に人づてで聞いた。
それが、あの時の稽古だったのだ。

 その福田、島崎の他に、原田忠司という師範代がいた。
 試衛館の竜虎と言われ、龍の島崎、虎の原田と呼ばれる原田忠司は、江戸中の町道場を巡って
木刀での他流試合を申し込み、無敗の実績を誇って恐れられているという。温和な島崎に対して、
原田は戦闘的で攻撃型の師範代だった。
 島崎一に稽古をつけて貰った数日後、道場に姿を見せた師範代の原田忠司とも勝太は稽古で立
ち会った。
 原田忠司は島崎と同じく勝太より十歳年長で、試衛館の虎と言われるだけあって、さすがに強
く勝太には全く手が出なかった。勝太が打ち込むと原田は身をかわし、勝太が離れると勝太の懐
に飛び込んで、足で急所を蹴りあげ、すぐ一歩飛び下がって勝太の頭に一撃を加える荒技を使っ
た。それは勝太が子供の頃に使った必殺技そのものだった。
「そんなのずるい!」
 勝太の怒りに原田が笑った。
「その台詞は地獄の閻魔に言え。生き抜くために戦うならどんな手でも使え」
 勝太も負けてはいない。これなら得意の手だからだ。激しく原田に体当たりして倒し、面打ち
の一撃をと思った瞬間、原田は身体を密着させて足払いで勝太を倒し、立ったまま上から喉元に
木刀の切っ先を突きつけた。勝太は思わず叫んだ。
「参った!」
 原田が木刀を引いて一歩下がってから言った。
「素早く喉を突いたら、そのまま横に跳んで身体を入れ替え次の敵に対応する。その場にいたら
背後から斬られてひとたまりもないからな」
「すぐ振り向いて、咄嗟に刀で受ければ?」
 原田がまた笑った。
「これは実戦だぞ。竹刀や木刀とは違うんだ。いいか勝太、実戦では咄嗟の時以外は相手の一撃
を刀で受けてはならん。身をかわしながら打ち込むのだ。刀ってえヤツはな、お互いに滑って弾
けるから次の計算が出来なくなる。それに、相手の刀が安物なら折れて刃先だけが飛んで来て致
命傷を負う場合もある。これは避けようがないからな。それに、相手の打ち込んだ刀を刀を受け
れば刀が痛む。だから出来るだけ刀に触れさせてはいかん。勝負手は突きだ。突きなら鎖帷子(
くさりかたびら)でも貫ける」
 原田と島崎一が江戸中に横行した辻切り退治に競って、何人もの不逞浪人や剣客を倒している
と、門人の噂話で聞いていた。だから、その教えを実戦から得た教訓として素直に聞くことが出
来る。
「これからは、手厳しくいくぞ」
 勝太は、原田の一挙一動を手本にして稽古に励むことにした。

 それからの勝太は、福田、島崎(一)、原田の師範代三人を目標に激しい稽古を重ね、気付い
た時は、いつの間にか夫々と五分に近い成績を残せるようになっていた。
 天然理心流の伝意としては、切紙二十二本、序目録が十二本、中極意目録が五十三本、免許が
二十七本、ここまでが一般的な免許で、その上に「指南免許」と「印下」もある。だが、「印下」
まで辿り着いたのは師範の周助を含めても何人もいない。周助門下では原田忠司と島崎一だけが
その域に近づきつつあり、福田がそれを追っていた。今は勝太が、その三人を抜きそうな距離に
いる。
 その中で、勝太の才能をもっとも高く認めたのは、宗家の後継者に一番近い位置にいる原田忠
司だった。原田は出稽古のない日、勝太とだけ血の出るような烈しい稽古をした。
 ある日、原田が言った。
「ここでは、勝ち残った者が天然理心流を継ぐことになる。分かってるな?」
 勝太は素直に頷いたが、宗家など全く興味がなかった。



5、 弟弟子・惣次郎


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