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アルプス秘話
6、モンパルナスにて(2)

7、移動を重ねて(1)

 二郎はEU来訪三日目の朝を、ジュネ−ブの河畔のホテルで迎えた。

だが、ここにも長くはいられなかった。田島ボスからの電話が入ったからだ。今度は田島の口調にも緊迫感が出ている。

「これからチュ−リッヒに向かってくれ。彼らが警察の網を潜り抜けて、ジュネ−ブからチュ−リッヒに脱出したという情報が入ったのだ」

「チュ−リッヒなら、TGVの超特急で行けますな」

「だめだ。財相が開放された時にあんたがいないと賠償金を払わされるんだ。すぐ空港に行ってくれ!」

「今度はチュ−リッヒ泊まりですか?」

「泊まるとこなんか、駅のベンチか公園で野宿だっていいんだぞ!」

「折角ですから、一流ホテルに泊まりますよ」

「うるさい! 予算はビジネスホテルだからな」

「もう手遅れです。それより財相はチュ−リッヒで釈放されますか?」

「今度はかなりの確率で、居場所がつかめたようだぞ」

と、田島が自信あり気に言った。

ホテルの支払いを済ませた二郎は、すぐホテル前に常時待機中のタクシ−に乗って、コアントラン空港に急いだ。空港までは約5キロで14分、搭乗手続きに費やした時間もさほどかからず、チュ−リッヒ行きの便は頻繁にあることから、二郎はすぐ、スイス航空国内便の近距離用プロペラ機に乗り込み、いよいよ財相開放の地に向かうことになる。

ただ、二郎にも未練はあった。ホテルに隣接するレストラン、ラ・カスカ−ドでの夕食が出来なかったことだ。あの鼻孔をついた焼き肉の匂いにそそられた食欲はそう簡単には消えるものではない。

やがて、チュ−リッヒのクロ−テン空港の滑走路に軽い機体が揺れながら着地した。

ひとまず、どこに泊まるかを考えたが、ここ数日間の経緯を考えると、犯人の行動範囲が徐々に狭まっているのは確かだから空港よりは鉄道の方が機動力を発揮しそうな気がする。したがって、駅に近いホテルがいい。だが、その前にまず食事……そう考えた二郎はタクシ−に乗って、とりあえず「バ−ンホフ・ストリ−ト」と、何の意味もなく行く先を告げた。それしか知らなかったからだ。それが、よかったのか悪かったのか、タクシ−は迷いもせずに真っ直ぐにバ−ンホフ通りのど真ん中、一流のサボイホテルまで二郎を運んでくれた。ならば迷うこともない。二郎は胸を張ってサボイホテルの玄関をくぐった。

知らぬこととは言いながら、このサボイは、チュ−リッヒで五指に入るデラックスホテルで、二郎に似合いのビジネス・ホテルから見れば料金は5倍はする。

まず、チェックインして豪華な部屋に入り、シャワ−で汗を流した二郎はすぐ町に出て、観光より先にホテルの前のツンフトハウス・ツ−ル・パ−クという肉料理専門のレストランで食事をした。目の前にレア−に焼けたステ−キがジュ−シ−な匂いで二郎の食欲をそそり、口の中にジュ−シ−な味が広がる。これで、ジュネ−ブのレストランに残した未練が消えたから単純なものだ。

そこに、田島からの電話で新たな情報が入った。やはり邪魔は入る。

「拉致犯人らがな、警察の追求を逃れて山岳部に車で移動したのを目撃されたぞ」

「そこで釈放ですか?」

「そんなの知るか。これでチャンスを逃したら、財相の命が危ないんだ」

「でも、最高級のホテルにチェックインしたばかりですよ」

「ホテルなんかに入るな。移動するかも知れんじゃないか!」

「でも、チュ−リッヒで財相が開放されそうだと……」

「だったら尚更、ホテルどころじゃないだろ?」

「とにかく、部屋は借りました。高そうなホテルですが」

「勝手にしろ! 安ホテルとの差額は、ギャラから引くからな」

「冗談じゃないですよ」

「冗談じゃない、まじめな話だ」

「で、山岳部の町ってどこですか?」

「すぐ、インタラ−ケンに行ってくれ。警察も追っている」

「無理ですよ。ホテルだってとったし、いま食事中ですから」

「そんなのはどうでもいい。先に列車のダイヤを調べるんだ。いよいよ逮捕劇だぞ」

「と、いうことは釈放じゃなく、救出ですか?」

「分からんが、そうらしい」

「では、明日の朝にでも移動します」

「明日? とんでもない。今、すぐ行ってくれ」

「どうしてもですか?」

「明日にでも警察と合流することになるぞ」

「ホテル代が……」

「分かった。経費でいいから早くキャンセルして移動してくれ!」

「じゃ。そうします」

こうなると二郎の血も騒ぐ。

「ちょっと、待ってください。時間を調べます」

店員を呼んでつたない英語と手真似で列車のダイヤを調べてもらうと、食事を終えても急行列車に間に合うことが分かった。その旨を伝えると田島が安心したように応じた。

「よかった。食べものの恨みは怖いからな。それに、これでわが社も顔が立つ。インタラ−ケンに着いたら電話をくれ。じゃ、切るぞ」

充分に料理を味わってからホテルに戻って二郎が交渉すると、シャワ−を使っただけだからと宿泊代の1割にまけてくれたが、高いシャワ−代についたのは確かだった。


8、移動を重ねて(2)


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