Welcome Guest 
メインメニュー
サイト内検索
ログイン
ユーザー名:

パスワード:


パスワード紛失

新規登録
[ リロード ]   [ トップ | 一覧 | 単語検索 | 最新 | ヘルプ ]

Counter: 4148, today: 2, yesterday: 5

アルプス秘話
6、ケーブルカー(2)

7、山頂を目指して(1)

 長い客待ちの列が次々に大型バスの中に吸い込まれて行く。
動き出したバスの中で、葵達の背後に乗った老夫婦が英語で話しかけて来た。
「私たちはカナダから来ました。あなた方は日本からですか?」
「ええ、日本からです」
「日本は大好きで、3回ほど行ったことがありますよ」
爽やかな風を受けて緑の高原を抜けたバスは、峡谷の村のはずれにあるシルトホルンバ−ン・タ−ルというロ−プウェイの発着する麓駅に到着した。
 ロ−プウエイ乗り場の切符売場には、たちまち列が出来た。妙なのは、順番を待つでもなく列にも並ばずにたむろしている人相の悪い男たちが、新たに到着した観光客をじろじろ眺めていることだった。葵がこれを見て弱気になった。
「恵子、ここから引き返そうか?」
「どうしたのよ、急に?」
「なんとなく不吉な胸騒ぎがするのね、予感ってヤツかな」
「バカみたい。私たち観光に来ただけでしょ? なにも危険なんかないのよ。警察官が一緒なんだから」
「でも、変なム−ドよ。あの人達はなに?」
 葵の視線を恵子が辿ると、最後尾の男たちを見た。観光客を装ってはいるが確かに警官でもない。顔を寄せて何かを話し合う目つきの鋭い男たちもいる。
 ロ−プウエイが降下して来て乗客が入れ代わり、葵達もキャビンに乗りこんだ。
 東洋人の観光客、北欧らしいグル−プ、中東からの家族連れ、東洋系では台湾、フィリピンなどらしいが、かなり凶悪な人相の妙な観光客もいる。
 赤いキャビンが、標高差数百メ−トルというラウタブルネン渓谷の断崖を一気に昇っていく。このシルトホルン行きロ−プウエイの大型キャビンは収容人員百名の大型で、ほぼ満員に近い80人ほどの乗客が乗り合わせていた。
 キャビンはたちまち上昇してゆく。
この辺りには、氷河の融水で知られる名瀑が何カ所かあり、そのいずれもが観光の名所となっていた。幾世紀にわたって雪解け水に浸食され続けた渓谷の岸壁は、幾条もの白い滝の流れが、重なり合って幅広い滝になって舞い落ちる。
強風なのかキャビンが激しく揺れた。
「こわい!」
 乗客は、それぞれの言葉で悲鳴を上げた。柳沢敬三と赤森サヤカも、これ幸いとしがみついて抱き合っている。それを見た葵が眉をひそめた。実際はうらやましいのだ。
落差数百メ−トルにおよぶヨ−ロッパ最大の滝ミュ−レンバッハのしぶきが、たった一本のケ−ブルにおよそ80人の観光客を乗せたキャビンの窓を激しく濡らした。
「これだから、下でこの滝を見物する観光客はレインコ−トが必要なのよね」
恵子が少し震えた声で葵に説明を続ける。
荒削りな絶壁の黒い岩肌が白い瀑布を浴びて濡れ、午後の陽光に輝いている。深い谷底の流れは曲がりくねって果てし無く続き、針葉樹の森の彼方で見えなくなっていた。
 ミュ−レンの村に到着すると、乗客少し入れ代わってキャビンがまた昇った。
「もうすぐ標高2、600メ−トルのビルク山頂、次が終点のシルトホルン山頂駅よ」
キャビンは、シルトホルンより一段低いビルク山頂駅に着いた。
 ドア−が開くと、ホ−ムにいた男が数人、キャビンの中を覗いて英語やフランス語などで口々に叫んでいる。その中にたどたどしい日本語もあった。意味はこうだ。
「一般の人はここで降りてください。この先のシルトホルン山頂の回転レストランは、教は貸し切りで今日は一般の人は入れません。景色ならここの方が素晴らしいし、レストランでもゆっくりと美味しい食事が頂けます」
 親切めいた言葉のようだが脅しが効いていて、つい腰が浮く。大半の乗客がブツブツ文句を言いながらも降車した。たしかにアルプスの景観はここでも堪能できる。あとは食事次第だ。葵が、美味しい食事というフレ−ズに釣られたのか恵子を誘った。
「景色が同じなら、ここで降りようか?」
「ここで? とんでもない……目的はシルトホルン山頂の展望台ですからね」
美代がきっぱりと言ったので葵も仕方なく頷いた。


8、山頂を目指して(2)     


XOOPS Cube PROJECT