Welcome Guest 
メインメニュー
サイト内検索
ログイン
ユーザー名:

パスワード:


パスワード紛失

新規登録
[ リロード ]   [ トップ | 一覧 | 単語検索 | 最新 | ヘルプ ]

Counter: 3501, today: 4, yesterday: 5

アルプス秘話
3、タレントの副業(1)

タレントの副業(2)  

 展望テラスの柵に寄り掛かって語っているその男女のところに、イタリア人と一目で分かる男が、周囲の目を気にするように笑顔で近寄り、片言の日本語で話しかけた。
「ヤナギサワさんですネ?」
「そうです」
「ハネム−ン、オメデト−。コレ、ボスからプレゼント、ニンギョウデス」
男は、たどたどしい日本語で確かにこう言って、大きなバッグから人形の形をした包みを取り出して手渡した。
「ありがとう。預かってきたお返しだ」
 ヤナギサワと呼ばれた男が、用意してい厚手の規格外封筒を手渡すと男が礼を言って、その封筒を、持参した大きなバッグに入れ、その中で確かめてから頷き、持参したセカンドバッグにその封筒を入れ、「コレモドウゾ」と、人形を入れてきた大きなバッグを柳沢に渡して立ち去った。プレゼントされたのに、預かったお返しとは妙だが、気にしても仕方がない。所詮、二郎とは関係がないからだ。
 その人形の受け渡しシ−ンは、ごく自然だから誰もが気にもしない。だが、ハネム−ンのお祝いとは裏腹な事務的な荷物の受け渡しと、始めから用意してあったお返しの厚みのある紙袋……それが、もしもも札束だったら? 祝福も感謝もないビジネスライクのやりとりから見て、あれは品物を購入した代金ではないのか? と、二郎は思った。
 サヤカという女が口をとがらせて息まいている。
「変だわ、知りもしない人からハネム−ンの記念品を頂くなんて。この前のパリのときもお人形だったでしょ?」
「外国の習慣なんだろ。安物の人形をチップで買わされたようなものさ」
「私にも中身の想像はついています。こんなこと、いつまで続けるの?」
「なにを?」
「ハネム−ンごっこと、人形運びです。しかも私が運ぶんですから……」
「正式に結婚できるまでだ。なにが、気にいらないんだ」
「前に税関で言われたんです。赤森さんはいつも人形がお土産ですね、って」
「だから何だ?」
「今回は、この人形も調べられような気がするのね」
「嫌なら、オレが運ぶ」
「それも心配なのよ。こんなこと止められないの?」
「二人の付き合いもか?」
「そんな話じゃないでしょ」
「分かった。オレ達の荷物には入れないから安心しなさい」
 ケ−ブル・キャビンの発車のベルが鳴り、二人が急いでその場を去った。
 この二人を追っても何を言えばいいのか、迷ってはいたが放置はできない。問い詰めるだけでも意義がある。二人を追おうと動いた二郎の前に、立ち去ったはずの人形を運んできたイタリア人が立ちはだかっている。その背後に屈強そうな男が二人いた。
 二郎は(うかつだった)と、心の中で呟いた。先刻から真剣に話し合っていたのは取引現場だったのか? そういえば、確かにあちこちで商談らしい姿が見えていた。
 小城財相にこだわり過ぎて、妙な空気に気づきながらも麻薬の取り引き現場を見逃していた自分がうかつだった。冷静に見まわすと疑わしい人物ばかりがうごめいていて、ここでは麻薬の密売が半ば公然と行われている。
 二郎の頭の中に、ある仮説が浮かび不安感が胸を突いた。
 拉致された小城財相が、日本を有望なマ−ケットとするEUマフィアに脅されて取引の材料に使われる恐れがある、としたら? 一時的にしろ、財相を脅してその政治力を生かせば、非合法的に日本への運び入れを容易にさせることは可能だからだ。
 それが、日本の若い男女の大多数を廃人同様に変えるだろう。
 二郎は、二人を追うのを諦め、イタリア男を睨みながらその場を離れて、建物の内部に入った。ただ、運び屋が柳沢敬三と金森サヤカであることだけは記憶に残った。
 1階にはレストラン「イ−グルネスト」の他に土産物のショップもある。
 二郎はゆっくりと店内を眺めた。相変わらず怪しげな男たちからの冷たい視線が二郎に向けて突き刺すように追って来る。
 二郎の目も徐々に、ただ者とは見えない不審なペアや男女グル−プの姿を捉えはじめていた。だが、その相手にも二郎の存在が怪しげに映っているのは間違いない。
 二郎は、店員に下手な英語でたずねた。
「2階はまだ席はあるのかね?」
「もう満席のようですが……でも、お一人さんぐらいなら」
 二郎は、階段を上がり、回転レストラン〃ビッツグロリア〃に入った。
 観光客の視線が、いっせいに二郎に集まった。
 二郎は腕時計を見た。午後3時半までにはビ−ルを飲むぐらいの時間はある。

  
5、リザーブ(1)


XOOPS Cube PROJECT