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アルプス秘話
3、銃撃戦(1)

銃撃戦(2)  



 軽量の小型のコルトを左に、持ちやすいS&Wを右に構えた二丁拳銃で、まず左手だけを角から出して銃声のあった右廊下の方角に向けて連射し、廊下に躍り出てヘッドスライディングし、敵が撃って来た部屋の開いているドア−の外から片膝を付き、銃を構えている男の肩口に一発撃ち込んで倒した。急所は外れているが痛さに耐えかねてか男はのたうちまわっている。すぐ部屋に押し入りその男を蹴飛ばして手放したライフルを拾って窓を開けて外に投げ捨て、すぐ部屋から退去して姿勢を低くして走り、角から五つ目の部屋のドア−を引き開けて飛び込み、あわてて迎え撃とうと拳銃を構える男にタックルして拳銃で横顔を殴ると、男は仰向けに音をたてて倒れた、そのミゾオチを靴先で思いっきり蹴飛ばすと「ギェ」と言うような奇妙な悲鳴を上げて男がエビになって失神した。間をおかずに銃を構えて奥の部屋に躍り込んだ二郎は、拍子抜けしたように立ちつくした。
 そこで、思いがけない光景に接したのだ。
 ダ−クグレ−のス−ツ姿の小柄な小城財相が一人、スイ−トル−ムの応接イスに悠然と座っていた。口にくわえたパイプの先から紫煙が揺れている。
 どう見ても人質にしては余裕があり過ぎる。見張りは一人だけだったのか、他に人の気配がない。拳銃を構えながら扉越しの隣の部屋を覗こうとした二郎に、財相が落ちついて声をかけた。まったくあわてる様子もない。
「4階の見張りは今倒した二人だけだ。他の部屋には誰もおらんよ」
「小城大臣ですね?」
「そうだ。おかげで助かったよ。警視庁かね?」
「公安235X・警備会社メガロガの海原二郎です。谷口丈吉元副総監の指示で大臣の警護に来ました」
 さすがにこの場では、無名のライタ−なのに人員不足で寄越されたとは言えない。
「そうか。わしの警護が秘書の草苅では足りんのか。彼は今、どこにいる?」
「この上のシルトホルン頂上駅の展望台にいます」
「迫丸君も一緒かね?」
「迫丸という秘書の方なら、パリで死亡したと聞きました」
 小城財相が憮然として呟いた。
「そうか、税関職員だった前歴がバレたのかな?」
 何はともあれ、小城財相救出作戦はこうして成功し、誘拐犯はクルド人やイラン、イラクなど中東のアラブ系革命戦線を名乗るグル−プであるらしいことが判明した。
 やがて、下の階を制圧した警察の地上組とヘリの合同機動隊が405号室に集まり、財相の無事を喜び、二郎が人質救出の功労者だと知って口々に褒めて握手を求めた。
 スイス警察側の指揮官であるロイル警部と名乗る機動隊長と、4人連れで玄関前に現れて戦って肩にケガをした地元の警察の警部補と、これも腕に軽傷を負って包帯を巻いたパリ警視庁のデビット警部が揃って現れて大臣に詫びた。
「救出が遅れまして、ご心配をおかけしました」
 敵は二人死亡で5人重傷、3人が軽傷、二人が無傷で逮捕されている。警察側は死亡はゼロだが重傷が一人で軽傷がデビット警部を含めて3人いた。
人質を無事に救出できたことを考慮すれば、まずまずの成果ともいえる。
 デビット警部が、高性能のトランシ−バ−で、頂上駅展望台のクロ−ド警視に連絡を入れて、財相の無事救出を知らせると、クロ−ド警視の声が響いた。
「よくやった。オギ財相を安全な場所へ、機動隊は山頂に応援を!」
「まだ、全員逮捕までいってないのですか?」
「目下苦戦中、押され気味でな」
 スイス警察のロイル警部に、デビット警部が伝えた。
「ここの現場検証とオギ財相の護送をお任せして、我々は山頂に飛びます」
「いや。ここは部下を残してスイス隊も山頂に行く。まだ間に合いますかな?」
事件を知って駆けつけた地元の人々が、いつの間にかホテルの前に大勢集まり、平和な町に生じた事件の成り行きを見守って、逃げ腰ながら遠巻きに見物している。
 すぐに逮捕者を尋問したが、財相拉致の首謀者は誰も知らないという。ただ、シルトホルン山頂にいる大物マフィアのフランクかパゾリ−ニが、その首謀者との連絡係らしいことだけは判明した。黒幕はフランクでもパゾリ−ニでもないのだけは確かだった。
 負傷者運搬用赤十字マ−ク入りスイス警察ヘリが風をまいてホテルの前庭に着地した。
 ジュネ−ブの病院に運ぶ敵味方の重軽傷者を乗せた赤十字マ−クの医療ヘリが、先に飛び立ち白銀の山を越えて去った。犯人側の怪我人は治療後に裁判にかけられる。
 デビッド警部の率いるフランス機動隊のヘリに二郎と財相が乗った。エンジンが唸り、プロペラが回転して砂塵を舞い上げた。が、すぐには飛び立たなかった。目標で揉めたからだ。
 ロイル警部の指揮するスイス警察のヘリと共にシルトホルン山頂に飛んで、機動隊を降ろし、そのままこのヘリで小城財相と二郎をパリまで送る、というデビッド警部の案に小城財相が猛反対したからだ。
 財相は、「草苅秘書を救出してからパリに行く」、と言い張った。それでないと気が済まない。自分だけが助かったとなれば武士道の精神に反するから日本では世論が許さず、「私の政治生命も終わるから、ここで腹を切る」、とさえ言い切っている。
 武士道とかハラキリなどと時代錯誤もいいところだが外国では説得力があるらしく、この「ハラキリ」の一言で小城財相と二郎の山頂行きが決まった。
 二郎はもう、どうでもなれという気分だった。
「草苅君は、ワシの身代わりに人質になってるんだ。助け出さねば気が済まん」
 一国の財務大臣が誘拐を解かれた直後に、警護官の救出に向かうなどとは正気の沙汰とも思えない。しかも、そこは麻薬密売組織のマフィア逮捕の戦闘現場なのだ。だが、小城財相はシルトホルン山頂行きを強く主張した。それを、周囲では武士道の誉れとか責任感の強さと見て許したことで、警護役の二郎にまで危険が及ぶことになる。二郎はメガロガ代表の田島源一を恨み小城財相を呪った。しかし、その反面、再びあの瞳のクリっとした山田葵に逢える……この思いを感じた瞬間、二郎は悪夢を振り払うように首を振った。
「そんなバカな」、たかが、知り合ったばかりの二十五歳の小娘に一目惚れするなど、二郎にとってあり得ないことだった。それでも若い娘たちの安否は気掛かりだった。
 ヘリは、シルトホルン山頂に向かった。
「戦闘はかなり激しいようです」
 ヘリが動き出すと、無線で傍受した若い機動隊員が報告した。クロ−ド警視からの作戦開始寸前の一報が入ったようだ。ここからは15分もあれば飛べる。
 二郎と小城財相らを乗せたパリ警視庁のヘリが緑の大地を舞い上がった。ミュ−レンの村が一望の下に入る。
 ミュ−レンから標高差千メ−トル上昇した位置にビルクの展望台があり、さらにそこから三百メ−トル高い所にシルトホルンの展望台がある。上空の風はかなり冷たい。
 しかし、遠い山々だけではなくラウンタ−ブルネン渓谷や、細くかすかに鉄道の路線、緑の草原に点在する赤や黄の家々の屋根。それらを上空から眺めていると、のどかなユングフラウ地区の日々の暮らしがかいま見られるようで、上空を飛ぶヘリの行く先に修羅場があるとしたら、それは白昼夢としか思えない。
「君は、余分に武器を携帯してるようだね?」
 財相が二郎のコ−トのポケットの膨らみを見た。 
「拳銃をいくつか……私はS&Wだけでいいです」
「余ってたら護身用に貸したまえ」
 右ポケットのとベルトからの拳銃が2丁、財相の手に渡った。
「38口径のコルトに、こっちはトカレフの48口径か……トカレフを借りるぞ」
 財相が手慣れた様子で拳銃を眺めて目を細め、左手を前に出し、その上に右手を重ねて銃を構えた。これは重い銃身を扱うときのプロの手つきだ。その二郎の思いを感じたのか小城財相が言い訳をするように語った。
「ワシは太平洋戦争で士官で参戦したが、拳銃は久しぶりだよ」
 その口調は懐かしげでもあった。
 窓から見下ろすと、頂上駅テラスのヘリポ−トが間近に迫っている。


5、山頂会議(1)


XOOPS Cube PROJECT