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アルプス秘話
5、パリの灯(1)

6、パリの灯(2)

「なんだね?」
「Mr・サコマルについてレポ−トを出します」
「わしは救出されるまで迫丸の死を知らなかった。どんなレポ−トを出すのかね?」
「まずMr・サコマルについてですが、カレは大臣の知らない間に、コカインなどのヨ−ロッパ密輸ル−トを調べるためにパゾリ−ニという男に会い、前職を見破られて殺害された。大臣はそれを知らなかった。それでいいですね?」
「なるほど……で、犯人は?」
「Mr・サコマルにパゾリ−ニが毒入りのタバコを渡した、という説もありますが、これはパゾリ−ニの取り調べで明らかになります。でも、直接の死因は拳銃による殺傷ですからね。犯行当事の目撃者もいますし、今回の逮捕者の中に必ず指示を出した者がいるはずですから真犯人の逮捕は時間の問題ですよ」
「そうなれば、日本で裁判にかけるために、引き渡してもらうことになるかな?」
「それよりも、Mr・サコマルの奪われた皮カバンの中身が問題になる可能性がありますが、それについてはなにかご存じですか? いずれ、犯人が逮捕されれば解決されることです」
「秘書がプライベ−トで持ち歩いたカバンなどに、わしは興味ないね」
「分かりました。調書にはそのとおりに記載します」
「好きにしてくれ」
「次に、Mr・クサカリは、捕らえられても大臣のブジを祈っていたようですね」
「ワシも同じ気持ちだった」
「大臣がキケンを省みずレストランにとび込んだときも、必死で大臣の身を思って叫んでいましたね。それが、戦いのサナカに撃たれました」
「名誉の戦死だな。わしも感謝しとるよ」
「Mr・クサカリは、オギ大臣が射殺したあのアラブ人の誤射で死んだと?」
「それ以外に、どう考えるのかね?」
「では、オギ大臣は敵討ちであのアラブ人を撃ったのですか?」
「あれは正当防衛だ。あのままにしたらワシが殺されていた。その前に彼の手元が狂って草苅を倒していたのにワシは気づかなかった」
「でも、あの男の拳銃はスイスの軍用銃で38口径で、9ミリ弾でした」
「だから何だ?」
「Mr・クサカリがうたれたのは48口径弾です」
「48? ワシは銃には詳しくない、どんな銃か見たいもんだな」
「これ以上は言うひつようはありません。オギ大臣とは関係ありませんから」
「あたりまえだ。関係あってたまるか!」
「ところで、大臣からはMr・クサカリの姿は見えましたか?」
「ワシからはテ−ブルが邪魔して、彼の姿はまったく見えなかった。それは、そこにいる海原君も同じ状況だったから、そう証言するだろう。おい、そうだな?」
 操縦室の髭男が、無言で頷いたのを葵が見た。
「これでケッコウです。いまの一言を聞きたかっただけですから」
「今の一言とを聞きたいとは何だね?」
「わたしはまだ、ニホン語の言いまわしがニガテですので、もういいです」
「気になる言い方だな」
「いえ、もう、これで気がすみました。ここからは深入りしたくありませんので」
 ふと、葵は会話の不自然さに気づいた。
(あの会話で何かが……?)
 財相が「テ−ブルが邪魔して」、と言った言葉が妙に気になる。シャ−ロット刑事はそれに気づいて「ニホン語の言いまわしがニガテ」と皮肉ったのではないだろうか。本来なら、テ−ブルは邪魔ではなくて身を守ってくれていたはずではないのか……あのテ−ブルが邪魔していなかったら、どうしたというのだろうか?)
 そこからは霧が沸いたように見えなくなり、葵の思考はそこで止まった。葵には見えない闇が不気味に広がっているような嫌な予感がする。
 その葵の不安を払拭するように、シャ−ロット刑事がさっぱりとした口調で言った。
「オギ大臣に、クロ−ド警視からの伝言がありました」
「なんだね?」
「私たちは面倒を好みません。大臣が無事だったことで充分満足しています」
「それは嬉しいな」
「一刻も早くパリからおたち退きを……とのことでした」
「有り難う。ご好意に感謝する。と、伝えてくれたまえ」
 大臣が納得したように軽く頭を下げた。
「もうひとつ……」
「なんだ、まだあるのかね? 早く言いたまえ」
「さきほど、わたしたちをオソッて来たヘリの件ですが、どうレポ−トします?」
「どういう意味だね?」
「いずれ、あの燃えた双発ヘリから焼死体も見つかります。まさか、オギ大臣と民間のガ−ドマンがマシンガンとハンドガンでオトしたとは言えませんからね」
「では、どうしろと?」
「ライアン刑事とミヨとわたしとで応戦したことにします」
「好きにしなさい」
「これで、すべてカイケツしました」
 葵は、この会話に耳を傾けながらなぜか納得できない矛盾を感じていた。
(これで、ここでの事件は解決する。しかし、これで本当にいいのだろうか?)
 この時、葵の胸の奥には不透明な濃霧がもやもやと 大きく広がるのを感じていた。
 ライアン刑事の指導でヘリが徐々に降下し、土埃を巻いて中庭に降り立った。
 すでに、日本の小城幸吉財務大臣救出の噂は早くもパリ中どころか世界中に広がっているらしく、パリ在住のマスコミ各社がパリ警視庁の中庭から門外に溢れ、セ−ヌ河畔にまで集結していた。当然、パリ警視庁、フランス政府、日本大使館、日本政府、日本警察庁からの代表や代理人なども出迎えに出ていた。
 ヘリが着地して小城大臣が降り立ったときには、ヘリを囲んで万雷の拍手と声援が夕闇濃いシテ島にこだまし、パリ警察庁吹奏楽隊の演奏がそれを盛り上げた。
 その後で、草苅秘書の遺体が降ろされると、音楽は鎮魂歌に代わり、人々も十字を切ったり合掌したりの静かな出迎えとなった。音楽隊の仕事はそこで終わり、マスコミ各社がマイクやカメラを持って小城財相めがけて殺到し、それを阻む警察官と揉み合いになって怒号が飛び交い騒がしくなっている。
 二郎が必死で財相を警護しようとするが、皮のハ−フコ−トに髭面の男を誰もボディガ−ドとは見てくれない。寄ってたかって二郎を取り押さえようとして乱闘になりパニック状態になる。あわてて駆けつけたシャ−ロット刑事の通訳で、二郎はようやく開放されたが、どさくさに紛れてマイクで強打されたらしく額が腫れて血が滲んでいた。まったく世話のやける男だ。それに気づいた葵が、近づいて応急の手当てを、と思ったが人込みに阻まれて、とても近づけるような状態ではない。それと、ケガをしたライアン刑事を警官や美代と共にに手伝ってもらって機体から降ろそうとしている恵子に手招きされ、そちらに向かった。それに気づいた取材陣が葵を追う。
 シルトホルン山頂での3人娘の活躍がすでに尾ヒレを付けて伝わっていたのだ。とくに、日本のマスコミ関係者からみれば、通訳が要らないから恰好の標的になり、こちらも質問の嵐が襲うことになる。
 まず、担架に移されたライアン刑事のことで、葵に質問が出た。
「そのケガはどうされたのですか?」
 横から美代が助け船を出す。
「麻薬密売組織との戦闘での名誉の負傷です」
 なかには担架に首を突っ込んでマイクを突きつけ、傷の痛みで呻いているライアン刑事に質問をぶつけている外人レポ−タ−もいた。
 それに気づいた数人の警官が走り寄ってライアン刑事を運ぶ役割を代わり、美代も一緒に医務室に向かった。残された葵と恵子が日本の取材陣のタ−ゲットになり、カメラや写真のフラッシュに囲まれて逃げることも出来ない。
「お二人のお名前をお聞かせいただけますか?」
「それは遠慮します。単なる観光客に過ぎませんから」
 葵の背中を押した恵子が背後にまわったために、葵が仕方なく取材の矢面に立つ。自分たちは単なる観光客で、巻き添えに会っただけだ、と必死で弁明する葵の言葉を聞いて、「はあ、そうですか」と、簡単に引き下がるほど異境での取材に生活を賭ける取材陣は甘くない。
「では、アルプス観光中に偶然、今回の麻薬組織の逮捕劇に遭遇したんですね?」
「そうです」
「日本の警察からは、ICPO研修生の浜美代巡査部長が参加していますね?」
「そのようです」
「その浜巡査部長とお二人の関係は?」
「大学時代の同窓生です」
「と、いうことは捜査情報を浜巡査部長から事前に入手していたのですか?」
「いえ、まったく知りませんでした?」
「でも、偶然にしては変ですね?」
「なぜですか?」
「お二人が観光に来て偶然出会った事件に同級生がいて、それに協力した?」
「おかしいですか?」
「お二人は最初から浜巡査部長に頼まれて、本気で協力したのではないですか?」
「なぜ、そんなことを?」
「実は先ほど、ヒルトホルン山頂に飛んだ別の取材班がレストランの従業員らから聞いた情報によると、日本の女性3人が目ざましい活躍をしていたそうです」
「誰か別人じゃないですか?」
「髪の短い女性と髪の長い女性と警官らしい女性の若い3人組だそうで、財相を乗せたヘリでパリに向かったそうですから、あなた方に間違いありませんね」
「いえ。人違いだと思います」
 そのうち、どこからか二人の名前を聞き出した記者が現れた。
「山田葵さん、佐竹恵子さん……そうお呼びしてよろしいでしょうか?」
 こうしてNHK支社のアナウンサ−の代表質問から始まり写真が撮られ、民放や新聞からも質問が続いて葵が返事に窮しているところにシャ−ロット刑事が現れた。
 こちらも、小城財相を囲んで取材攻勢に辟易して逃げ出して来たところだった。
 葵の困惑した状態を見たシャ−ロット刑事が、英語と日本語で助け船を出した。
「お二人は観光で来ていたのですが、わたしたちに協力していただきました。その件については、のちほど広報からくわしく発表しますので、ここまでにしてください」
 質問責めにあったシャ−ロット刑事が、取材陣を軽くいなして会見を終えた。
 二郎がシャ−ロット刑事を見つけて、ホッとしたように近寄った。
「刑事に頼みがあります」
「デ−トならお受けしますよ。あなたには全員が命を助けられましたから」
「デ−トはまた……所持していた拳銃と使用済みの弾は全部、機内に置いてきました」
「トカレフだけは、こちらで預かりましたが……」
 傍にいた葵が二郎の横顔を見た。
 やはり、この人は、ロ−プを用いて雪の中から拳銃を探したのだ。まさか、そのトカレフが、草苅秘書のからだを貫通した48口径の銃弾などということは?」
 そこでまた葵の思考が止まった。あり得ないことを考えたからだ。
7、パリの夜(1)


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