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先生方の作品集

ある出会いから

                  村山恵美子

 なんの話から発展したのか思い出せないのですが、町の居酒屋でたまたま隣り合った女性と、
「陶芸、楽しそうだよね。やりたいね」という話になり、
「それいいね。やろうよ」
その彼女も大変乗り気で、陶芸センターの場所や陶芸教室の日程を、なぜか私の方が調べて連絡するよということになってしまいました。
薄暗い非日常的な酒場のムードとほろ酔いの力が、普段口下手な私を饒舌にさせたのかもしれません。お互い、顔と名前がわかる程度で、これまで言葉を交わす場面など一度もなかった二人です。

 たいそう盛り上がったのは良かったのですが、調べてみると陶芸教室は月に1回だけ。なかなか互いの都合が合いません。すると次第に私の心に、「なんで誘っちゃったのだろう」という後悔の気持ちが生まれてきました。その気になれば一人でも行けたはずだし、だいたい、かなり年下であろう彼女と共通の話題などあるのだろうか。なにを喋ったらいいのだろう。
いい歳して、会話の苦手な人間とはこんなもの。話が途切れた瞬間のあの『沈黙の恐怖』をつい抱いてしまうものなのです。

 酒場での約束からおよそ半年後、やっと二人のタイミングが合い陶芸教室午前の部に参加となって、私は正直なところほっとしていました。
「お二人は今日初めてということですけど、どんなもの作りたいですか?」
 先生の問いかけに互いに希望を伝え、いよいよ作業開始。
「このように」と先生がさらりとお手本を見せてくれます。じっと見入る私たち。「なるほど」「わかりました」同じように真似るのですが、なにせ初心者、なかなかうまくできません。土をこねる、のばして積み上げる。ろくろを回し削る、上から横から眺める。なにか違うぞとまたのばす、削る。イメージする器に近づけたい。頭の中にあるのはそのことだけでした。

 あっという間に時間は過ぎ、「おもしろいね」「うん。また次も来ようよ」と約束して彼女と別れた帰り道、ハンドルを握りながら、
「あ、そういえば…」一緒に行こうと連れ立って来たのに、大して話などしなかったことに気がつきました。だからと言って気まずかったわけでもありません。3時間も向かい合っていたのに、わざと喋らなかったわけでもなく、言葉を探して見つからなかったわけでもないのです。
 
 その後、陶芸センターで出会う私たちは、「おはよう」の挨拶の後、
「ね、聞いて。今日はアタシ自分専用のコーヒーカップ作ろうと思うの」
「あっそう、いいんじゃない。で、どんなやつ? 受け皿も?」
いきなり作品の話となり互いのアイデアを披露し、そして黙々と作り始めるのです。
「いいね。今度ちょっと真似していい?」
「オリジナリティーに富んでいるけど、それ、使いづらそうだよ」
 素直に褒めたりずけずけとけなしたり、二人は、互いの作品に好き勝手なことをストレートに言い合うそんな関係がずっと変わらず続いています。

「それってもしかして犬のエサ入れ?」
 私が苦心の末仕上げた平たい鉢を、真顔で聞く彼女。
「犬? 犬なんかいないよ」
 何を言うんだ。粘土でねばねばの両手を手術直前の医者のように持ち上げて言う私。しかし、言われてみれば確かに。見えなくもない。
 そんな我々のやりとりを、指導者の先生は笑って聞いています。

 あの居酒屋での出会いから一年以上が過ぎました。無理をして当たり障りのない世間話を探して間を持たせる必要もなく、楽しく過ごせる陶芸仲間となった二人。向こうも何も聞かないし、こちらもあえて聞き出す必要もないようで、彼女の家族構成も住所も年齢も、今もって私は知らずにいるのです。
多分、30代半ばかなと思うのですが、…よくわかりません。


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