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先生方の作品集

大規模農業の宿命『春の蛍』

               村山 恵美子

 遅い雪融けにやきもきしていた北国にもやっと春がきた。さわやかな南風が心地よい。田園地帯の農民は春の戦闘モードに突入し、田植えや種まきに向けて、「超」が付くほど忙しい時期を迎えている。中でも、機械を操る男たちは忙しい。
 地元の新聞に、脱サラして北海道に移り住み農業に新規参入した男性が書いたエッセイが載った。ベテラン農家のおやじさんにこう言われたそうだ。
「ゴールデンウイークってなにさ。食べたらうまいのかい」
 思わず吹き出した。関係ないよ俺たちには。つまりそういうこと。

 とにかく耕し植えないことには実りはないのだ。北海道の多くの農家が大規模経営の道を突き進んでいる。トラクターで耕す作業を延々と続けるのだが、面積があり過ぎて明るい時間だけでは仕事をこなすことができない。
「春だけ一日が30時間くらいあるといいのにな」
そんな言葉も聞かれる。雨が降ると機械が入れず作業ができなくなるのだから、その気持ちもよくわかる。勢い天気との競争になり日が暮れてもトラクターは動き続け、連休どころか日々の睡眠時間さえ満足に取れない日が続く。
 カーテンの端をめくり、外をそっと見回してみる。
「うわー、今夜はいっぱいいるなあ…。」
闇の中にトラクターのライトがあっちにもこっちにも。点在する眩しい光がゆっくりと動いている。その光景はまるで、でっかい蛍のようだ。

 お日様が昇れば外に出て働き、日が沈めば家に帰る。農民の特権とも言うべきそんなライフスタイルはすっかり消えた。
 眠らないという言葉は都会だけを表す言葉ではなくなったようだ。
 国が推奨し農民も受け入れ良かれと推し進めた規模拡大。本当にこれが正しい道なのだろうか、これが私たち農民の幸福なのだろうか…。
規模拡大路線をいまさら後戻りはできないことはわかっている。わかっているつもりだが、春の蛍を見るこの時季、漠然とした疑問を抱いてしまう。
今夜も水を張った水田をかき混ぜ、蛍が進んでいる。


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