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先生方の作品集

未熟者の入院生活

                 村山 恵美子

 病院生活は味気ないものだ。自由なスペースは与えられたベッドだけ。時間は有り余るほどあるのに決められた流れに沿って生活しなくてはいけないため、大好きな夜更かしなど出来ようはずもない。一日のなんと長いことだろう。
 そんな入院中、見舞ってくれる人がいるのは、とても嬉しいものだ。明るい性格の友人が、「やあ。調子はどう?」ひょっこり顔を見せてくれて一発ジョークをかましてくれたりするものだから大笑いになる。病気であることをその瞬間は忘れられ元気が注入されるようで、なんともありがたい。

 しかし、見舞ってくださる方は、気のおける友人だけではない。どこから聞きつけたのか名前はわかるが喋ったこともない方が来られたりする。「うちの婆さんが入院したとき世話になったので」そう言われてもいつのことだか私にはわからない。先代、先々代からのやり取りが尾を引き、私のことなどよく知らないけれどとにかく過去の義理を返さねばと来られたようだ。「どこが悪いの?」の問いかけから始まるので、あまり言いたくない発症からのストーリーを細かく喋る必要に迫られる。友人たちのようにバカな話をするわけにもいかない。家単位での交際を重んじてきた田舎に住む宿命だろうか、言葉を選び気も遣いとても疲れる。
 一人帰られたと安堵したらすぐに次のお客様がいらして、また一から説明し、日に何度も同じことを喋ることになる。録音しておいて使えたらいいのに。と不謹慎なことをふと考えたりする。静かに転がっていたい辛い検査があった日も、誰か来られるたびに起き上がる。

 病状も改善し体も楽になり退院の目処が立ったころには、皮肉なものでもうだれも来ない。今なら、あまり親しくない方が来られてもちゃんと笑顔で対応できるのになあ。すっかり春めいた外に目をやりながら思ったりする。
 隣のベッドの若い女性が、「いつ退院ですか」と聞いてきた。
「月曜に帰ります」
「そうですか。よかったですね」
 小さく微笑んでくれた。入院が長期に及んでいる彼女の元へは、母親が4、5日に一度様子を見に来ていた。だが他の見舞い客は一人も見ていない。
 原因不明のふらつきに苦しみ治らない彼女。帰ることが出来る私。…帰りたくても帰れない人もいるのだとようやく気付きはっとした。一日が長いと不満を持ち、わざわざ足を運んでくれた方々にも、ああ疲れると感じていた。そんな狭い心の自分がとても恥ずかしい。穴があったら入りたかった。でもそんなものもないので、未熟者の私は身を小さくしてそっと布団にもぐりこんだ。


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